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広島地方裁判所 昭和46年(ワ)1065号 判決 1975年8月29日

原告

光島孝子

被告

仲川一三

ほか二名

主文

一  被告らは、各自原告に対し金三四九万四、七四五円及びこれに対する昭和四六年一二月二七日(但し被告岩本唯夫については同月二八日)から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担としその余は被告らの連帯負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。たゞし被告岩本唯夫において金一二〇万円の担保を供するときは、同被告は右仮執行を免かれることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し金七〇二万八、四五五円及びこれに対する昭和四六年一二月二七日(但し被告岩本については同月二八日)から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  被告岩本唯夫については、敗訴の場合の仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

被告仲川一三は、昭和四四年一月七日午前六時一〇分ころ被告有限会社錦タクシー(以下被告会社という)所有のタクシー(広島五う八〇三五―以下仲川車という)に、原告を乗せ、広島市横川町三丁目五―一先交差点(以下本件交差点という)を広島市十日市町方面から北方の同市大芝町方面に向い進行中、右交差点を西方から東方に向い直進してきた被告岩本唯夫の運転する普通乗用自動車(広島五そ八八―以下岩本車という)と衝突し、その際原告は頭部、胸部、左肘部、右上肢挫傷、頸部損傷等の傷害を受けた。

2  被告らの責任

(一) 本件事故は、被告仲川及び同岩本が交差点を通過するに当つて前方及び左右の注視を怠つた過失により発生したものであるから、右被告らは直接の不法行為者として民法七〇九条により本件事故に基く損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告会社は、仲川車の所有者であり、これを被告仲川に使用させていたものであるから仲川車の運行供用者として自賠法三条により本件事故のため原告を受傷させたことによる損害を賠償する責任がある。

3  原告の損害

(一) 治療費 三一万五、四一八円

原告は、右頸部損傷等の傷害のため、事故当日である昭和四四年一月七日から同年四月一日まで八五日間、同年一〇月八日から同月二二日まで一五日間林外科医院に入院治療をうけ、同年四月二日から同年一〇月七日まで一八九日間(実治療日数一三一日)、同年一〇月二三日から昭和四五年九月七日まで三二〇日間(実治療日数二二七日)同医院に通院治療を受け、同年九月七日症状固定とされたが、なお頸部神経症状、眼球に著しい調節機能障害、脳波に病的所見等の後遺症を残し、その程度は自賠法施行令別表第八級に相当する。また原告は、林外科医院に入通院している間、本件事故による左右両耳難聴のため田村耳鼻咽喉科医院で治療を受け、さらに斉藤外科医院において三回にわたり脳波の検査を受けた。そのため原告は、自賠責保険による治療費の限度額以上の治療費として(1)右林医院に治療費三〇万円、(2)田村耳鼻咽喉科医院に治療費四、七四六円、(3)斉藤外科医院に脳波検査料合計一万六七二円支払つた。

(二) 付添費 五万九、〇〇〇円

原告は、右林外科医院に入院中五九日間付添婦訴外沖田満枝を使用し、付添料一日一、〇〇〇円、合計五万九、〇〇〇円を支払つた。

(三) マツサージ料 一〇万四、八〇〇円

原告は、昭和四四年四月一五日から昭和四五年一二月三〇日まで医療の傍ら訴外沖田和三にマツサージ療養を受け、マツサージ料合計一〇万四、八〇〇円支払つた。

(四) 休業損害 四八四万九、二三七円

原告は、昭和四三年一〇月一日から広島市銀山町一番一二号において日本メナード化粧品株式会社広島支社銀山町営業所を開設し、月額平均一四万四、〇〇〇円の利益を得ていたが本件事故による傷害のため訴外内田叔子を雇用して営業を継続せざるを得なくなり、減収を来たすことになつた。右月額利益から推算すると、原告の休業期間である昭和四四年一月から昭和四五年八月まで(同年九月七日治療中止)二〇ケ月間の売上利益は二八八万円になるべきところ、実際の売上利益は一五九万八、五六三円に過ぎなかつたのであるから、その差額一二八万一、四三七円と外に内田叔子に支払つた給与(月額六万円)及び住宅費(月額二万五、〇〇〇円)の二〇ケ月分合計一七〇万円とがこの間の右営業所の逸失利益である。

原告は、また昭和四三年一〇月一日から光内商会広島営業所を開設し、月額八万円の本給を得ていたが、本件事故により欠勤を余儀なくされ、昭和四四年一月から昭和四五年八月まで二〇ケ月間の給料一六〇万円の得べかりし利益を失つた。

原告は、更に昭和四三年一〇月一日から大同生命保険相互会社の保険外交員となり、月額平均一万三、三九〇円の報酬を得ていたところ、本件事故により保険外交ができなくなり、昭和四四年一月から昭和四五年八月まで二〇ケ月間の報酬二六万七、八〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(五) 慰藉料 一四〇万円

原告は、前記入院日数(一〇〇日)、通院実治療日数(三六一日)、後遺障害の程度からして自賠責保険から支給された後遺障害補償費の外に慰藉料として一四〇万円の支払を受けるのが相当である。

(六) 弁護士費用 三〇万円

原告は、本件訴訟を代理人に委任し、その着手金として金三〇万円の支払をした。

4  よつて原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として金七〇二万八、四五五円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四六年一二月二七日(被告岩本については同月二八日)からそれぞれ支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(被告仲川、被告会社の認否)

1  請求原因1の事実のうち原告の受傷病名は争うが、その余の事実は認める。

2  同2の(一)の事実のうち、被告仲川の過失の点は否認し、その余の事実は認める。

同2の(二)の事実のうち、被告会社が仲川車の所有者であり、これを自己のため運行の用に供していたものであることは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実は争う。原告主張にかかる両眼の視力障害は既往のもので、本件事故に起因するものではない。

(被告岩本の認否)

1  請求原因1の事実のうち原告の受傷病名は争うが、その余の事実は認める。

2  同2の(一)の事実のうち被告岩本の過失の点は否認し、その余の事実は認める。

3  同3の事実は争う。原告の長期にわたる入通院治療は、原告が結核の治療をしていたこと、原告の症状が主として自覚症状のみによるものであることから、本件事故と相当因果関係を欠くものであり、また原告主張の眼球についての後遺障害は本件事故と無関係のものである。

三  被告らの抗弁

(被告仲川、被告会社)

1  被告仲川は本件事故当時仲川車の後部左側座席に原告を乗せ、南北に伸びる道路を南方から時速約四〇キロメートルで交通整理の行なわれていない本件交差点に向け進行し交差点を北方へ直進すべく接近し、交差点手前で減速、左右の安全を確認したうえ、交差点を直進しようとしたが、交差点中心付近で、西方の横川駅方面から岩本車を運転して東進してきた被告岩本が前方注視を怠り、既に交差点に進入している仲川車に留意することなく漫然直進し、そのため仲川車の後部に衝突したものであつて、本件事故は被告仲川の過失に基くものではなく、前方注視を怠つた被告岩本の過失に基くものである。そして仲川車には構造上の欠陥、機能上の障害は存しなかつた。

2  原告は、被告会社が契約者である自賠責保険から治療費五〇万円、後遺障害補償費一〇一万円の計一五一万円(医師が直接支払を受けた医療費も含む)の支払を受け、また被告会社は外に原告の医療費三万二、三二六円を支払つたから、損害賠償額の算定にあたつてはこれを控除すきべである。

(被告岩本)

原告は、被告岩本が契約者である自賠責保険から治療費五〇万円、後遺障害補償費一〇一万円の計一五一万円の支払を受けているのであるから、損害賠償額の算定にあたつては、これを控除すべきである。

四  被告らの抗弁に対する認否

抗弁1の事実のうち、被告岩本の過失の点は認めるが、その余の事実は否認する。同2、3の事実のうち原告が被告ら主張のとおり自賠責保険金を受領したことは認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実のうち原告の受傷病名を除いては当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、原告は本件事故により頭部、胸部、左肘部、右上肢挫傷、頸部損傷の傷害を受けたことが認められる。

二  関係者の過失の有無

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められる。

1  事故の発生した本件交差点は、広島市寺町方面から同市祗園町方面へ南北に伸びる道路(南方から交差点に至る幅員は、約一一メートル、北方から交差点に至る幅員は約二一メートル)と国鉄横川駅前方面から三篠橋方面へ東西に伸びる道路(幅員約二〇メートル)とが交わる交差点で、本件事件当時は信号機が作動しておらず、交通整理が行なわれていなかつた。

2  被告仲川は、仲川車の後部左側客席に原告を乗せ、南北に伸びる道路を南方の同市寺町方面から時速約四〇キロメートルで北進すべく、右交差点に接近したが、早朝で交通量の閑散なことに気を許し、左方(西方)道路から交差点に進入してくる車両に対する安全確認を欠き減速措置もとらず同一速度で交差点に進入し、交差点入口から約二、三メートル進行した交差点中央付近において、左方道路から進入して交差点内を直進する岩本車を自車左横直近に初めて認めたものの、次の瞬間には自車左側後部と岩本車の前部とが衝突した。

3  被告岩本は、東西に伸びる道路を西方の横川駅方面から時速約四〇キロメートルで東進すべく、本件交差点に向け進行し、交差点の手前で速度を時速約三五キロメートルに減じたが、交差点に進入するにあたり、右時間帯において比較的通行の多い左方(北方)道路に気を奪われ、右方(南方)道路から交差点に進入してくる車両に対する安全確認を欠いたまま進入し、交差点入口から約二五メートル進行した交差点中央附近を進行中、南方道路から進入して交差点内を直進する仲川車を右前方直近に認めて急ブレーキをかけたが間に合わず、自車前部と仲川車の左側後部とが衝突した。

4  本件交差点には岩本車が仲川車より一瞬早く進入しているが、僅差であつて両車は殆んど時を同じくして交差点に進入したものである。

しかして、以上の確定を左右するに足る的確な証拠はない。ところで右認定事実からすると、本件事故は、被告仲川、同岩本が共に交通整理の行なわれていない本件交差点を進行するに当つて、交差する左右進路から進行してくる車両等の交通状況に十分な注意を払わず、進路の安全を確認しなかつたこと、被告仲川についていえば左方道路から直進してくる岩本車に対する安全確認を怠つた過失、被告岩本についていえば右方道路から直進してくる仲川車に対する安全確認を怠つた過失が競合して発生したものと認められる。

三  被告らの責任

被告仲川、同岩本の過失の競合が本件事故の原因をなしていることは前記のとおりであるから、同被告らは不法行為者として本件事故により原告の受けた損害を賠償すべき義務がある。

次に被告会社が仲川車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないところ、被告会社の免責の抗弁は被告仲川に過失が認められる以上、他の点を判断するまでもなく採用することができないから、被告会社は自賠法三条により原告の受けた損害を賠償する責任がある。

四  原告の損害

1  治療費三一万五、四一八円

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故のため、頭部、胸部、左肘部、右上肢挫傷、頸部損傷の傷害を受け、林外科医院に事故当日である昭和四四年一月七日から同年四月一日まで八五日間入院し、以後通院治療を受けたこと、その間斉藤外科医院において同年一月二二日、同年三月二六日、同年一〇月一日の三回にわたり脳波の検査を受けたところ、脳波に異常所見があると診断され(実通院日数三日)、また本件事故により生じた両混合性難聴のため同年一月二三日から同年九月一〇日までの間五回にわたり田村耳鼻咽喉科医院において治療を受けたが、難聴度は次第に増し、同年九月一〇日頃には眩暈発作、右方への傾倒反応を示していたこと(通院日数五日)、その後原告は、昭和四四年一〇月八日発熱、嘔気が強くなつたので、同月二二日まで一五日間林外科医院に再入院し、その後は同医院に昭和四五年九月七日まで通院治療を受け、同年九月七日症状固定と診断されたが、なお頸部に頑固な神経症状、両眼の視力障害等の後遺症を残し、その程度は昭和四六年三月ころ広島市民病院において自賠法施行令別表第八級に相当すると診断されたこと、原告は治療費として林外科医院に対し昭和四六年五月一九日、同年一〇月五日の二回に合計三〇万円、昭和四五年八月一八日田村耳鼻咽喉科病院に四、七四六円、斉藤外科医院に対し昭和四五年一月二八日、同年三月一五日の二回に合計一万六七二円それぞれ支払つていることが認められる。

なお〔証拠略〕を総合すると、原告の長期にわたる入通院、眼に関する後遺障害は、いずれも本件事故による受傷に起因するもので、結核治療によるものではなく、また自覚症状のみによるものでもないことが認められ、この認定に反する被告本人仲川、同岩本の各供述は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はないから、原告の長期にわたる入通院、眼に関する後遺障害は本件事故と相当因果関係があるものというべきである。したがつて、その点についての被告らの主張は採用できない。

2  付添費五万九、〇〇〇円

〔証拠略〕によれば原告は林外科医院に入院中の昭和四四年二、三月中の五九日間付添婦として訴外沖田満枝を雇用し付添料一日一、〇〇〇円合計五万九、〇〇〇円を支払つたことが認められる。

3  マツサージ料一〇万四、八〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告にはマツサージ療法の必要があつたため昭和四四年四月一五日から昭和四五年一二月三〇日までの二〇カ月余、訴外沖田和三からマツサージ療法を受け、その料金として合計一〇万四、八〇〇円を支払つたことが認められる。

4  休業損害

(一)  メナード化粧品の販売関係 一二〇万円

〔証拠略〕によると、原告は、昭和四三年一〇月一日から広島市銀山町一の一二において店舗を借り受け、日本メナード化粧品株式会社広島支社の銀山町営業所を開設し、メナード化粧品の卸売業を営んでおり、販売手数料として同月六万五、五四九円、同年一一月一九万三〇四円、同年一二月一八万六、九七二円の収入を得たこと、原告は本件事故による受傷のため昭和四四年一月七日以降休業を余儀なくされ、そのため同月一〇日従前ポーラ化粧品の販売経験のある訴外内田叔子を雇用して銀山町営業所における化粧品卸売業に従事させたこと、原告と右内田との間に雇用契約においては、原告は内田に対し給与として月額六万円、住宅費用として月額二万五、〇〇〇円支払うことを約したこと、原告は少くともその主張のとおり昭和四五年八月末日までは休業を余儀なくされたこと、右内田が営業に従事した昭和四四年一月から昭和四五年八月までの間における化粧品販売の手数料は合計一五九万八、五六六円(〔証拠略〕に記載された販売手数料の合計)であつたこと、原告は銀山町営業所における営業により収入としては販売手数料を得ていた反面、家賃の外交通信費等の経費を要していたことが認められる。

ところで原告は、原告が営業に従事していた当時の月額平均利益は一四万四、〇〇〇円であるから、これを基礎として休業期間二〇カ月間(昭和四四年一月から昭和四五年八月まで)を算出すると二八八万円になるが、その間の売上利益は一五九万八、五六三円に過ぎないから、両者の差額も休業損害である旨主張しており、前記認定事実によれば原告が営業に従事していた昭和四三年一〇月からの三ケ月間の平均月額販売手数料は、一四万七、六〇八円(円未満切捨)となるが、その三ケ月間についてみても販売手数料は月々による変動が大きい上、右、月額平均販売手数料は経費を控除しない額で純益とはいえないし、また仮に原告が休業することなく、営業していたとしても右三ケ月間の平均月額販売手数料を継続して維持し得たものと認めさせるに足る的確な証拠はないから、右平均月額販売手数料から推算した休業期間中の販売手数料額(計算上二九五万二、一六六円―円未満切捨―)から実際の販売手数料一五九万八、五六六円を差引いた額が休業による損害であると認めることはできない。

ただ原告が休業期間中営業を維持するに要した費用、すなわち訴外内田叔子に対する給与は休業による損害であるということができるところ、〔証拠略〕によると原告は休業期間二〇ケ月の間内田に対し月額六万円の給与を支払つたことがうかがわれるから、結局メナード化粧品の卸売業関係では、内田に対する給与の支払総額一二〇万円が休業による損害であるというべきである。

なお原告が休業期間中右内田に支払うことを約した住宅費用月額二万五、〇〇〇円については、それが原告において休業することなく営業していたと仮定した場合に要する家賃とは別個のものであることを認めるに足る証拠がないから、右住宅費用をもつて休業による損害とすることはできない。

(二)  スチームバス販売関係 一六〇万円

〔証拠略〕によれば、原告は、化粧品販売のための銀山町営業所に昭和四三年一〇月一日からスチームバスの販売業を営む光内商会の広島営業所を併設してスチームバスの販売に当り、月額八万円の固定給を得ていたが、本件事故により少くとも原告主張の期間である昭和四四年一月から昭和四五年八月まで二〇ケ月間休業を余儀なくされたことが認められるから、その間の給料一六〇万円相当の得べかりし利益を失つたことになる。

(三)  保険外交関係 二六万七、八五三円

〔証拠略〕によれば、原告は昭和四三年一〇月一日から大同生命保険相互会社の保険外交員となり、同年一二月末日まで三ケ月間に外交員報酬として四万一七八円(一ケ月平均一万三、三九二円―円未満切捨―を得ていたが、本件事故による受傷のため少くとも原告主張の昭和四五年八月まで休業を余儀なくされたことが認められるので、その間外交員報酬二六万七、八五三円(円未満切捨)相当の得べかりし利益を失つたことになる。

40,178×20/3≒267,853円

5  慰藉料

本件事故の態様、受傷の程度、入、通院による治療期間、後遺症の程度、事故当時における原告の収入その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、一七〇万円をもつて相当と認める。

6  原告の損害額合計と損害の填補

以上の認定によると、原告の損害額は治療費三一万五、四一八円、付添費五万九、〇〇〇円、マツサージ料一〇万四、八〇〇円、休業損害三〇六万七、八五三円、慰藉料一七〇万円の合計五二四万七、〇七一円になる。なお前掲甲第六九号証、弁論の全趣旨によると、右治療費、付済費、マツサージ料は、自賠責保険金によつて支払われなかつたものであることが認められる。

ところで原告が被告会社、被告岩本を契約者とする自賠責保険からそれぞれ治療費五〇万円、後遺障害補償費一〇一万円の計一五一万円の保険金を受領したことは当事者間に争いがなく、また被告会社が自賠責保険金とは別個に三万二、三二六円支払つたことは、原告において明らかに争わないから自白したものとみなすべきところ、原告は自賠責保険金をもつて支払われた治療関係費を請求していないから、原告の損害金合計額五二四万七、〇七一円から右後遺障害補償費計二〇二万円及び被告会社の支払額を差引くと、結局原告は、前記記載の損害については、三一九万四、七四五円を被告らに請求し得ることになる。

7  弁護士費用 三〇万円

本件事案の難易、訴訟の経過、原告の請求とこれに対する認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告らに賠償させるべき弁護士費用としては、三〇万円が相当であると認める。

五  結論

以上の説示によると、被告らは、各自原告に対して損害賠償として合計三四九万四、七四五円及びこれに対し訴状送達の日の翌日であることが記録上明白である昭和四六年一二月二七日(但し被告岩本については同月二八日)から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

してみると、原告の本訴請求は、被告らに支払義務を認めた右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条仮執行宣言及び仮執行免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明)

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